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● 紆余曲折・余話 別バージョン ●

 ―――東京駅で鴉鷺は始を待っていた。
 始には詳しく説明していないが、次の『のぞみ』で神戸に向かわないと、肝心のルミナリエに間に合わなくなってしまう。
 腕時計に目をやると、約束の時間はすでに15分ほど前に過ぎてしまっていた。遅刻をしない始にはめずらしいことだ。
 ほんの少し苛立たしげに、十分に心配そうに、鴉鷺は構内を見渡した。
 そこに目当ての始の姿はまだなかったが、鴉鷺のいる方向に駆け寄ってくる白いロングコートの女性がいた。
 ……目を引く。
 豪華なロングコートは細目のシルエットで、少し高めの身長をよりほっそりと見せている。肩に散る長い黒髪との対比で、首もとをふわふわとやわらかそうに包むファーまで発光しているように白い。
(……モデルかなにかかな…)
 遠目に視線を引かれつつ、鴉鷺は感心したように心の中で感想をもらした。
(―――そう、女の子にしてはちょっと背が高い……。かっこいい子だなぁ)
 誰かとの待ち合わせに遅れているのか、それとも本当に撮影かなにかなのか、盛大に人目を引きつつ走る彼女は、だんだんと鴉鷺の方に近づいてくる。
「―――……?」
 鴉鷺は目が良い。
 メガネの必要はほとんどないが、おそらく2.5とか2.6とか、そのくらいの視力がある。
 その視力で、なにげなく白いロングコートの人影を追っていた鴉鷺の眉間に、ふとしわが寄った。
「……?!」
 息を切らせて走ってきた彼女は、鴉鷺の目の前で足を止めた。
「……すまない。遅くなって」
「……」
 自分を見上げて笑ったその顔を、鴉鷺はマジマジと凝視した。
 一瞬の沈黙。
 よくよく考えなくても、それは鴉鷺の非常によく見知った顔だったが、次の瞬間鴉鷺が叫んだのはたった一言だった。
「―――誰ッ!?」
 わずかに首をかしげて、そう叫ばれてしまったその<さっきまで>モデル系美少女<と信じられていた>彼は、鴉鷺を見上げた。
「誰って……始」
「わかっとるわッ、そんなことはッッ!!!」
 大マジメに答えられて、鴉鷺がたいへん理不尽な返事を返す。
 ハタと気づけば、構内の人々の視線が『何、彼女いじめてんの?』と、言葉と同じほどの非難を込めて自分に向けられている。
 ウエスト・ラインがきれいにシェイプされた、足もとまでの白のロングコート。さらっさらに整えられた髪には、きっとプロの手が入っているのだろう。ほぼワンレン状態で、はっきりくっきり天使の輪がきらめいている。
「……おまえどうしたんだ、その格好?」
 呆然と聞いた鴉鷺に、始はちょっと困ったように自分の姿に視線を落とした。
「続が、こっちのほうが鴉鷺の為だから着て行けって。やっぱりハデで変か?」
「いや……別にハデじゃないし……というか、ハデでも似合っているからいいんじゃないのか……?」
 そう言いながら、思わず鴉鷺は、自分の服装にも視線を落としてみた。
 バイクで飛ばして来たので、ジーンズにあとは黒のセーターとライダース・ジャケットのラフな格好である。
(……こんな俺の隣に、こんな始が並ぶのか……)
 思わず、続の意図がわかってしまい、鴉鷺はため息をついた。
 何が鴉鷺さんのためだ。おもしろがっとるな、続ッ!?
「―――……鴉鷺、顔赤い。どうした……?」
「なんでもナイッ!!」
 不思議そうに問う始に、おそらく続の意図は通じていないのだろう。
 もろに下からのぞき込まれてそう言われ、鴉鷺は照れ隠しにそっぽを向いた。
 もうぎりぎりに迫った『のぞみ』の出発時間を幸い、始の手をつかんでホームに駆け上がる。『のぞみ』のドアから車内にすべり込んだ。
「今年はどこに連れてってくれるんだ? 見せてくれるきれいなものって?」
 笑いかける始の髪に天使の輪―――。
 鴉鷺は照れながらも苦笑してしまって、その髪にいつものように指をすき入れた。
「―――行ってみてのお楽しみだな。せっかく続にお気遣いいただいた事だし? せいぜい野郎どもをうらやましがらせてやるぜ」
「……?」
 後半部分をヤケのようにささやいた鴉鷺の言葉を聞き取れず、始が首をかしげる。
「……まあ、あと3時間弱。時間はある。説明してやるよ。―――とりあえず、誕生日おめでとう、始」
「ありがとう」
 ふんわりとうれしそうに始は微笑んだ―――。


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