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● love letter(アモン・デビルマン黙示録)●

 わたしの恋は、けして叶わぬ恋。
 すべてを滅ぼす想い。
 すべてを壊してしまう願い。

 わたしにはすべてわかっていた。
 その影響も。その結末も。
 ……どれほどの危険を自分が犯そうとしているのかも。

 塵のようなわずかな可能性もないことは、わかっていたはずなのに。
 それでもなお、捨てきれなかった―――わたしの恋。

 ああ、どんなに嘆き悲しんでも、わたしはおまえを失うだろう。




 選んでおまえの側に降りたわけではない。
 わたしの選んだ「仮の人生」の側に、偶然おまえがいただけだ。
 だが、わたしはおまえを愛した。おまえの優しさを愛おしんだ。おまえの姿をいつまでも見ていたかった。
 いつ愛したのかは問題ではない。
 愛してしまったことが、すでに問題だった。わたしがおまえを失いたくないと、そう願ってしまったのが問題だった。

 おまえの「親友」だったわたしの無茶な願いを聞き届け、おまえはその人生までも投げ出してくれた。わたしの語った嘘に疑いも抱かず、ただ、わたしがそう願ったから。
 わたしは、わたしの同胞のうちの最も強いものを犠牲にして―――そうして、おまえの優しさを、わたしの愛おしんだおまえの優しさを、すべてではないにせよ壊してしまった。
 そうまでしても、おまえを失いたくなかったのだ。
 すでに、おまえを失うことにわたしは耐えられなかった。どんな姿であろうと。どんなに変わってしまっても。そう、おまえという「個体」を、わたしはどうしても失いたくなかったのだ。

 獰猛に笑うようになったおまえ。
 (おだやかな微笑みは浮かべなくなったね)
 その手を血に染めても、意にも介さないおまえ。
 (ちいさな傷にも怯えていたのに)
 どんなに生物の命を奪っても、幽かな悲しみさえ感じなくなったおまえ。
 (小動物の死にさえ耐えられなかったのが嘘のようだ)
 強靭な肉体と、人間を超越した能力を宿したおまえ。
 (そのままのおまえが生き残れる世界でさえあったなら!)

 だが、おまえをそんなふうにしたのも、そのままのおまえが生き残れない世界にしたのも―――わたしだから。
 それでよかったのだ。
 ただ、そうして存在してくれていれば。
 ただ、そこに生きていてくれれば。



 彼女の死は、儚いわたしの望みのすべてを消し去ってしまった。
 たったひとりの人間の死が、わたしとおまえを永遠に引き離してしまった。
 手違いとはいえなかっただろう。
 彼女が来るべき世界に生き残れないことを、わたしは誰より知っていた。
 彼女だけではない。人間と呼ばれた生物が、ただ一個の個体も生き残れないことをわたしは知っていた。彼らはわたしの敵だったからだ。
 おまえが彼女を愛しているのは知っていた。それでもわたしは彼女を助けようとは思わなかった。
 とうてい人間は新しい世界では生きてはいけず、また、たとえ生き残ったとしても世界で唯一の存在になることは、彼女を幸福にはしなかっただろう。そう、たとえおまえと一緒にいたとしても。
 だから、わたしは積極的に彼女を殺そうとは考えなかったが、敢えて守ろうとも思わなかった。その他の、数多くの人間と同じに放っておいた。
 それは真実だが、言葉は飾るまい。
 そう、わたしは彼女を敢えて守ろうとは思わなかった。
 彼女が人間で、おまえの愛する者だったからだ。
 そのわたしの、彼女に対する意志を持った冷徹な無関心は、おまえには許しがたい裏切りだっただろう。

 そうして、彼女の死はわたしとおまえを永遠に引き離してしまった。
 おまえは、けしてわたしを許さないだろう。



 世界は速やかに破壊された。
 地上から、わたしの眠りのあいだに人間が築いた醜い文明は取り除かれ、空はその青さを取り戻した。
 薄汚い人間の気配はなく、瘡蓋のようなアルファルトも跡形もなくはぎ取られ、ただ荒涼とした大地―――もうしばらく待てば、この荒涼とした大地は原始の美しさを取り戻すだろう。そう、もうしばらく。
 そう長く待つ必要はあるまい。以前の眠りに比べれば、ほんのわずかな微睡みのあいだだ。
 そうしてわたしはふたたび美しい世界に目覚めることができる。

 望んだとおりの結末。望んだとおりの世界。
 だが、望んだようには、おまえはわたしのかたわらにいなかった。



 空を埋め尽くす黒い影。
 あらゆる形状、あらゆる能力を持った者たちがわたしに向かって近づいてくる。
 わたしの同胞たちと、どこも違わないように見える―――敵。敵。敵。
 そして、おまえはその先頭にいる。
 ああ、それでもそのおまえの姿を見られるのが喜ばしいわたしは、なんと愚かなのだろう。
 避けられない戦い。
 逃げることも隠れることもできない。
 時ばかりは、わたしにも戻すことはできない―――いまこの世界では。

 おまえが近づいてくる。
 (それでも待っているよ。愛しいおまえ)
 わたしと戦うために。
 (おまえと争うなどとは、一度も思ったことさえなかったのに)
 わたしを許すことができないから。
 (どこかで生き続けてくれるなら、許してくれなくともよかったのに)

 近づいてくる。
 強い意志を持った、強靭な敵たち。
 迎え打とうとするわたしの同胞たち。
 多くの個体が傷つき死に絶える。
 力は拮抗しており、戦いは激しいものになるだろう。
 新しい世界に捧げる生け贄のように、おまえの仲間も、わたしの同胞も、虫螻のように死んでいくのだ。
 誰も生物の死を悼まない、この新しい世界のなかで。

 だが、たとえわたしの同胞がすべて死に絶えて、おまえの仲間がその力の全てでわたしに戦いを挑んでも、おまえたちにはわずかな勝機もありはしないのだ。

 わたしは神であるこの身を憎んでいる。
 わたしは神であるこの身を嘆く。

 ―――ああ、明。
 わたしはおまえを失うだろう。

end.2000.feb. [love letter]



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